研究概要 |
1.糸球体細胞に発現するチロシンキナーゼ分子の同定と発現様式の解析 単離糸球体、培養メサンギウム細胞、培養糸球体内皮細胞よりRNAを抽出し、変性プライマーを用いたRT-PCR法で糸球体構成細胞に発現するチロシンキナーゼ遺伝子群を増幅、塩基配列を決定し分子同定した。その結果、今までに腎臓での発現が確認されていた7種類のチロシンキナーゼ(IGFR,TrkB,PDGFR,Flt-1,Flk-1,bFGFR,UFO)に加えて、さらに、15種類のチロシンキナーゼ(tyro-1,tyro-4,tyro-6,hyk,Ptk-3,Ryk,tie,yes,lyn,tec,Jak1,Jak2,Jak3,c-abl,flk)が糸球体に構成的に発現していることを明らかにした。 2.メサンギウム細胞における受容体型チロシンキナーゼFlt-1の役割 これまで、血管内皮細胞特異的VEGF受容体と考えられていた受容体型チロシンキナーゼFlt-1が培養メサンギウム細胞で発現していることを明らかにした。さらに、非血管細胞でのFlt-1の役割を明らかにする目的で、培養メサンギウム細胞に各種サイトカインを作用させ、Flt-1の遺伝子発現動態を検討した。その結果、PDGF刺激によるメサンギウム増殖過程でVEGF、Flt-1ともに遺伝子発現が特異的に増強することを明らかにした。これらの結果は、VEGF/Flt-1系のシグナルもPDGFとともにメサンギウム増殖性腎病変に関与している可能性を示唆した。 3.新生仔マウス胸腺摘出が糸球体におけるIgA沈着に及ぼす影響 ddYマウスの糸球体IgA沈着におけるT細胞の役割を明らかにするために、新生仔マウスの胸腺を摘出し、糸球体におけるIgA沈着を検討した。胸腺摘出群のマウスは対照群マウスと同様の腎病変を示したが、糸球体におけるIgA沈着は明らかに減少していた。血中IgAおよび高分子IgAには量的な差を認めなかったが、脾臓におけるT細胞は有意に減少し、PHA、ConAに対する反応が有意に低下していた。これらの結果は、胸腺由来のT細胞が糸球体におけるIgA沈着に関与していることを強く示唆した。
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