研究概要 |
糸球体腎炎において、糸球体局所の補体活性化がその病態に深く関与していることは明らかである。したがって、腎固有細胞に存在する補体制御因子も当然のことながら腎炎の発症、進展に関わっているものと思われる。今回、我々は補体制御因子のひとつであるmembrane cofactor protein:MCPに関して正常および各種腎炎組織は、腎細胞癌による腎摘出症例の健常組織部分を用いた。腎炎腎組織については、腎生検を施行し、確定診断された105症例(Minimal-change nephrotic syndrome;MCNS,18例:Membranoproliferative glomerulonephrtis ; MPGN,6例 : Membranous nephropathy ; MN,16例 : IgA nephropathy,32例 : Mesangial proliferative glomerulonephritis ; mesPGN,7例 : Lupus nephritis,21例 : Post-streptococcal acute glomerulonephritis;PSAGN,4例:Focal segmental glomerulosclerosis; FGS,1例)を対象とした。腎生検組織から糸球体を単離し、Acid Guanidinium-Phenol-chloroform:AGPC法にて、RNAを調製し、M-MLV逆転写酵素、random primerにてcDNAを合成し、reverse transcription polymerase chain reaction:RT-PCRによって、MCPの発現について検討を行った。特異的なmRNAの量を正確に定量するため、標的cDNAと区別できるような一定量の競合鋳型:competitive templateを加え、同時に増幅し標的DNA量を定量した。Competitive templateはPUC系のプラスミドの一部を岡田秀親博士(名古屋市立大学分子医学研究所)より供与されたps5vectorに組み込まれた約1.5kbのMCP cording region中のPCRにてamplifyする約700bp中に組み込むことによって得た。MCNSは全例とも正常腎組織と同様の発現を示すのみであったが、その他の増殖性腎炎においては一部尿蛋白の漏出程度とMCPの発現程度とは相関が認められた。尿蛋白漏出は、疾患の活動性を反映しているものと考えられるが、それらの症例で糸球体のMCP発現増強がみられることは、糸球体腎炎の病状の経過において重要な役割を担っている可能性も推察される。今後、治療に対する反応性、腎機能との関連等経時的な検討が必要である。
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