研究概要 |
母乳または人工ミルクで飼育された哺乳時期(消化管機能が成獣に比べ未熟な時期)のラットの消化管を用い、小腸刷子縁酵素の発達ならびに栄養素の吸収能を生理学的ならびに分子生物学的手法での基礎的研究で明らかにすることを目的として研究を行った。 まず、今回は母乳栄養で飼育されたラット新生仔で低栄養状態に暴露された消化管機能(栄養素の消化と吸収)の発達はどの様な影響受けるか?の研究を行い、次にあげる(1)-(3)までの項目の研究を行う基礎資料を得ることを目的とした。(1)消化管機能の発達は摂取された食物(消化管内環境)により影響を受けるか?(2)母乳は人工ミルクと比べ消化管機能の発達にどの様なメリットがあるか?(3)新生児・乳児の消化管機能の発達は、特に未熟な超・極小未熟児で、母乳に含まれる成分だけで十分か? 新生仔期の栄養不良による消化管の蛋白の消化、吸収の面からの検討はSD系ラット新生仔を用いて検討した。対照群は8匹飼育、栄養不良群は日齢2より1週間のみ16匹飼育とし、日齢2,9,16,23に消化管内の蛋白消化能力(proteolytic activity)の測定、翻転腸管法による蛋白の吸収能(pinocytotic activity)の測定及び腸管粘膜と肝のCathepsinB activityの測定を行った。 proteolytic activityは、対照群の推移は日齢9,16,23でそれぞれ7.6,177.3,530.6(μ g/tripsin equivarents/ml)であり、栄養不良群の対照群に対する比[%]はそれぞれ70.3,46.898.5%であり消化管内の蛋白消化能力の一過性の低下を認めたが、日齢23以降は回復がみられた。 pinocytotic activityは、放射能ラベルBSAでは日齢9,16で対照群に比べ栄養不良群ではそれぞれ5.6,1.9倍と取り込みの増加がみられたが日齢23では差はなかった。一方β-lactoglobulinでは69.6倍、2.3倍、3.4倍であり栄養不良群は対照群と比べ顕著に増加していた。 CathepsinB活性(U/mgprotein/min)は、肝の場合、対照群と栄養不良の推移は日齢9,16,23でそれぞれ10.4,18.1,9.7及び7.9,10.0,7.1であり栄養不良群は全日齢で対照群より低下していた。消化管粘膜の場合対照群と栄養不良群の推移は日齢9,16,23でそれぞれ10.7,17.4,1.5及び4.4,4.3,3.2であり栄養不良群で一時低下したが日齢23では対照群値への回復がみられた。 新生仔期の栄養不良は蛋白の消化、吸収能の発達に少なからず悪影響を及ぼすのみならず、アレルギー発症の見地からも注意すべきであると思われた。
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