研究概要 |
妊娠14日のSlc:ICRマウスを開腹,子宮切開し,胎児の鼻・上口唇を子宮外に露出させ,この部分にアルゴン・レーザーを2ワット,1秒で,1ないし3回照射した。その後胎児を子宮内に完納し,子宮を縫合,閉腹した。術後胎児を経時的に回収し,照射野の創傷治癒過程を組織学的に観察した。 1回照射では真皮深層にまで傷害が及んだ。白血球,リンパ球の炎症性細胞の出現は見られず,赤血球を貧食する多数のマクロファージを認めるのみであった。創面は壊死組織で覆われ,毛細血管の新生はほとんどなく,肉芽組織の形成も見られず,創は正常の組織構築を有する表皮と真皮の再生により治癒し,瘢痕は認められなかった。ヒアルロン酸は受傷後より出現し,創治癒までの全経過を通じ,また,閉創後も豊富に存在した。コラーゲンは,線維芽細胞の遊走が見られた時期にのみ一致して比較的多量に認められた以外,全経過を通じて疎であった。 3回照射では真皮下部の軟骨組織にまで傷害が及んだ。組織学的特徴は1回照射とほぼ同様であったが,創は再生組織ではなく,瘢痕により充填された。 出生後の創傷は,好中球の浸潤などの急性炎症を伴い,創は血管新生を伴う肉芽組織で充填され,コラーゲンが過剰沈着した瘢痕により修復される。本研究での所見は,この出生後の創傷治癒とは著しく異なる。これは胎児における,線維芽細胞やマクロファージなどの細胞自体の機能,TGF-betaなどのサイトカイン・増殖因子の動態,ならびにヒアルロン酸やコラーゲンなどの細胞外基質のturnoverとorganization,加えて,それら3者間における相互作用の特異性に基づくものと考えられる。本研究により,胎児外科において,レーザーメスが創傷治癒の点から有力な武器となり得ることが分かった。つた,胎児の無瘢痕性治癒の機序の解明がケロイドの根本的な治療薬の開発につながるものと確信する。
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