研究概要 |
ビーグル犬を用いた異所性部分肝移植を8例に試みた。移植部分肝の重量は165±17gで全肝の62±8%であった。移植後生存日数はそれぞれ0、2、75、84、98、133、141、376であり、早期死亡例の死因は1例が術中心停止、1例が術後肺水腫であった。一方、コントロール群6例の生存日数はそれぞれ21,28,33,38,77,85であった。長期生存群6例とコントロール群5例の術後28日目の血清直接ビリルビン値、間接ビリルビン値、γ-GTP値はそれぞれ2.7±1.9mg/dl vs 15.2±6.8mg/dl、0.75±0.42mg/dl vs 4.1±1.7mg/dl、50.7±10.2IU/L vs 157.6±53.2IU/Lで、コントロール群に比べ異所性部分肝移植群で有意(p<0.01)に良好な肝機能を示していた。 異所性部分肝移植後順調に経過した症例を選んで移植後91日目に固有肝の摘出を試みた。固有肝は萎縮し摘出重量は95gであり、組織学的には細胆管の増生と肝細胞の萎縮がみられ高度閉塞性黄疸の所見であった。一方、移植肝は著明な再生肥大が認められ、針生検で得られた細織像では静脈周囲に軽度の細胞浸潤を認め、軽度の拒絶反応の存在が疑われたが、それ以外はほぼ正常の構築を保っていた。固有肝摘出後285日の長期間、移植部分肝のみで生存することが可能であった。 異所性部分肝移植は、宿主肝を温存することにより、移植肝が移植直後に十分な機能が発現しない場合、その時期を乗り切る可能性を有する魅力的な手術術式である。本術式は臨床的には成人における異所性部分肝移植や心停止後のドナー肝を用いた異所性肝移植への応用が考えられる。本実験で長期生存犬が得られたことで異所性部分肝移植の臨床応用の可能性が示唆された。また1例だけではあるが、二期的に固有肝を摘出した後も長期生存が得られたことから、小肝癌並存肝硬変もその適応となり得ると思われた。
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