研究概要 |
大腸癌のKi-ras codon 12のmutaionの進行癌における頻度は高度異型腺腫よりやや低いという報告が多い。表面型大腸腫瘍では病変が小さいにも関わらず腺腫成分を認めず,全体が癌で占められている病変がしばしば認められる。この事実から表面型大腸腫瘍で腺腫を経ない発癌過程の存在の可能性が問題となっている。我々は病変形態を隆起型と表面型に分けて早期大腸癌のKi-ras codon 12 mutation及びp53染色性を検索した。20例の表面型早期大腸癌,23例の隆起型早期大腸癌,39例の進行大腸癌を対象とした。ホルマリン固定パラフイン包埋の組織からmicro-dissection法によってDNAを抽出した。Dot blot hybridizationにはKi-ras codon 12のPCR産物とdigoxigeninによって標識したoligonucleotide probeを用いた。 Hybridization後抗digoxigenin抗体を加えalkalinephosphataseで発光するルミフォス530を作用させX線フイルムに感光させて観察した。P53染色用抗体はDaco社のD07を用いた。Ki-ras pointmutationの頻度は,表面型で20例中2例10%,隆起型で23例中10例43%,進行大腸癌で39例中15例38%に認められた。Mutationのタイプはmutationが認められた27例中16例でGGTからGATであり,他のmutationはGGTからGTT,GTTからTGT,GGTからCGTなどであった。P53染色陽性率は表面型で8/23(35%),隆起型で5/20(25%)で差を認めなかった。表面型ではKi-ras point mutationの頻度は隆起型に比較して低く,この結果はSoh,Yamagataらの報告と一致するものであった。即ち隆起型と表面型ではKi-ras point mutationの関与に相違があり,大腸癌発生において異なった経路があり得ると考えられた。我々の結果では,表面型でKi-ras point mutationを認めた2病変ともIIa型であった。隆起型ではKi-ras point mutation頻度が23%で表面型の方が低頻度であることより,表面型ではKi-ras point mutationを経ない癌発生の過程の存在が考えられた。
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