研究概要 |
低体温下体外循環・循環停止(25℃,60分間)による脳障害を検討するため,雑種犬10頭を使用し予備実験を施行した.しかしながら,循環停止中に心室細動が出現し,心停止液の頻回投与を余儀なくされたため,循環開始後の心機能の回復が悪く,人工心肺離脱が不可能であった.循環停止中の心筋保護に問題があることが判明したため,当初の予定を変更し,まず90分間の循環停止が可能な心停止・保存液の開発を行った. 10-15kgの雑種成犬10頭を用いた基礎実験を行った結果,従来のSt.Thomas心停止液にHistidine 30mM/l,ATP 160muM/lを加えた心停止液を用いることにより,90分間の循環停止中の心停止及び心保存が改善し,良好な心機能下での人工心肺離脱が可能となった. その後,我々の開発した心停止・保存液を使用し,現在までに計3頭の犬で60分間循環停止による脳障害を,急性期実験(人工心肺離脱後3時間)にて検討したが,病理学的に有意な所見を得るには至っていない. しかしながら,この間我々の開発した心停止・保存液を用いることにより,心臓の長時間(12時間)単純浸漬保存が可能であることが判明し,その成果は"長時間心保存後の人工心肺下移植心心機能の回復"を主題として,平成5年度の心臓移植研究会及び外科学会総会において発表した. 今後も低体温循環停止の合併症である脳障害の検討を継続する予定であり,最終的には心保存液と同様な概念からなる脳保護液を開発するつもりである.
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