研究概要 |
局所脳虚血による脳浮腫の発生と脳内血小板活性化因子(PAF)産生との関係について検討を行なった。局所脳虚血はラットを用い、切離翻転した外頸動脈から内頸動脈に糸付き塞栓子を挿入して中大脳動脈を閉塞,また塞栓子を抜くことで血流再看灌流とした。このモデルの病理学的検討では,虚血2時間後から皮質の海面綿変化および神経細胞の核や細胞質の濃縮,空胞化,融解などの梗塞所見が見られ、その範囲は内頸動脈分枝および中大脳動脈領域全般にわたる広範なものであった。今回は実験群として,sham群2時間虚血群(2-0群),4時間虚血群(4-0群)2時間虚血後2時間再灌流群(2-2群)の4群を作成し,それぞれの群において脳浮腫の指標としての脳内水分含量を乾燥重量法で,また脳内PAFをBligh & Dyer法,TLCで抽出分離した後PAF〔^3H〕scintillation proximity assay systemで定量した。その結果脳内水分含量は,sham群78.45±0.27%,2-0群79.73±0.48%,4-0群80.35±0.30%,2-2群80.93±1.05%であり,虚血により脳内水分含量の有意な増加が見られ,これは虚血時間の延長および血流再潅流によりさらに増加した。一方,脳内PAF含量については,sham群4441±346,2-0群2298±409,4-0群2481±679,2-2群2901±930ng/g dry wtであり,虚血により大脳半球内PAF含量は有意に低下し,血流再潅流によりやや増加傾向が見られたもののコントロールに比べまだ低値であった。今回の結果より,ラットの局所脳虚血において虚血性脳浮腫の発生と脳内PAF含量との間には明らかな相関関係を認めなかった。また,これまでにPAFアンタゴニストを用いた間接的所見から脳虚血の病態におけるPAFの関与が推定されていたが,今回の結果からは,局所脳虚血においては,虚血の進行により脳内PAF含量は低下することが明らかとなった。
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