研究概要 |
チロシンキナーゼ型増殖因子受容体は複数の細胞内情報伝達系を生み出すが、この系に属するものとしてPI3キナーゼ(phosphatidylinositol-3 kinase)があり細胞増殖に密接に関係している。PI3キナーゼは一般型PIキナーゼの4位のリン酸化ではなく、イノシトール環の3位を特異的にリン酸化し、これが癌増殖のシグナル伝達の要となっていると考えられる。そこでPI3キナーゼの基質となるイノシトールリン脂質のアナローグをもちいて癌細胞の増殖抑制効果を調べた。本研究に使用したアナローグはイノシトール環の3位をdeoxy-体に転換したものであり、これがPI3キナーゼによるイノシトールリン脂質の3位の特異的リン酸化を阻害することをわれわれは1,2-〔^<11>C〕-diacylglycerol(このトレーサ法は一般研究B,02454337で完成した)をもちいた細胞系(C6-glioma)で確認した。 次に乳癌(MCF-7),大腸癌(SW620),肺大細胞癌(PC-13),肺小細胞癌(QG90),急性リンパ性白血病(CCRF-CEM)の各種癌細胞の培養系においてアナローグの細胞増殖抑制効果を調べたところ、それらに対して60〜90nMで抑制効果をしめした。これらの結果はシスプラチン(CDDP)や5FUにくらべても1/2〜1/5の殺傷効果をもつ一方、正常な細胞(MT4-cell)に対しては極めて低い細胞毒性(>40muM)を示した。以上の結果より、わたしは本研究で増殖シグナル抑制という新しい方法論による癌治療に十分期待がもてることを初めて明らかにした。
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