研究概要 |
麻酔薬は一般に免疫系を抑制すると考えられている。一方手術侵襲や麻酔は悪性腫瘍の転移を助長するという報告もある。最近では悪性腫瘍細胞の転移には細胞接着分子も関与するといわれており。今回の補助金による研究では実際の悪性腫瘍患者を対象に、手術、麻酔が接着分子の一つであるICAM-1に及ぼす効果について検討した。我々の施設で開発した方法で血清中に遊離しているsolubleICAM-1(sICAM-1)濃度を,さらにICAM-1の発現に関係のあるTumor necrosis factor alpha(TNF-α),Interleukin-6(IL-6)についても測定した。 その結果、臨床的に転移を確認できた悪性腫瘍患者は転移のない患者に比べ高いsICAM-1値を示し、麻酔開始後それらの血清中sICAM-1の値は低下した。TNF-α,IL-6は測定閾値以下のものが多く一定の傾向はつかめなかったが、TNFは一部1時間以内の早期に抑制されるものがあり、sICAM-1の変化に時間経過が似ていた。血中のsICAM-1は細胞傷害性リンパ球の1ymphocyte function-associated antigen-1(LFA-1)に結合し、腫瘍細胞と細胞傷害性リンパ球の結合をブロックすると考えており、麻酔によりsICAM-1が抑制されるということは腫瘍細胞が細胞傷害性リンパ球とより多く結合し腫瘍細胞自体を抑制すると推測される。
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