脊髄後角第五層型細胞(以下、第五層型細胞)は、末梢受容野からの痛み刺激を上位中枢へ伝えるために重要な働きを果たしていると考えられている。この第五層型細胞活動は、各種吸入麻酔薬で抑制されることを今まで報告してきた。一方、繰り返しの痛み刺激は、この細胞活動を持続的に興奮させ、各種の感覚刺激に対してその細胞活動を過敏にさせるとの報告がある。近年考えられている術後疼通の機序も術中の持続的な痛み刺激によって上述した如くの痛覚過敏が生じているものとされる。基礎的研究として、私は、痛覚過敏を生じさせる侵害刺激としてフォルマリンを用い吸入麻酔薬としてイソフルレン(以下、Isoと略)を用いて第五層型細胞活動の影響について研究した。また、臨床的研究として腹式単純子宮全摘術において、硬膜外麻酔を用いて術中脊髄へ入力するインパルスをブロックして全身麻酔法(GO+Iso)と術後の疼通の程度を比較検討してみた。 基礎的研究の方法:L_<1-2>間で脊髄を切断した除脳脊髄猫を用いた。GOF麻酔下で外科的処置を行なう。動脈圧モニターは、頸動脈より、輸液・薬液投与経路は、頸静脈より行なう。猫は、気管切開をおかれパンクロニウムで不動化され、人工呼吸器で換気される。脳固定装置におかれた猫が、脊髄を露出された後、左足先付近に興奮性受容野をもつ第五層型細胞活動は、細胞外微小電極法にて導出される。侵害刺激として用いた5%フォルマリン50ulは、興奮性受容野の中央に皮下注した。フォルマリン投与5分前もしくは5分後よりIso濃度は、それぞれ0.5%、1.5%で60分吸入させ、その後30分間100%酸素下で観察した。これらのデータは、コントロールとして90分間100%酸素下で投与したフォルマリン反応と比較された。 結果:1.5%Isoでは、有意にフォルマリン反応を抑制したが、中止後コントロールとほぼ同程度の反応を示した。0.5%Isoでは、有意の抑制はなかった。また、フォルマリン投与5分後と5分前でのoの結果について有意差はなかった。 臨床的研究の結果:全身麻酔法単独と比べて硬膜外麻酔法の有用性については観察されなかった。 結論:基礎的研究の結果からIsoは、Preemptive analgesiaを生じえない、また、臨床的研究から硬膜外麻酔法は、Preemptive analgesiaに有用ではないことがわかった。
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