研究概要 |
手術室に勤務者する者において不妊症の出現率が高いと報告されているが,手術室を汚染する吸入麻酔薬(つまり,余剰ガス)の影響が考えられる。本研究では,ラットの妊娠率がわが国で使われている代表的な揮発性麻酔薬であるセボフルランおよびイソフルランへの暴露によってどのように影響されるかを検討した。平成5年度は,膣スメアの所見で月経周期が規則正しいことを確認した処女雌ラット6匹を4週間の期間にわたり週4日間の割合で1日6時間,空気と混合した0.1%セボフルランに暴露してた後,生殖能力のある雄ラットと交配してその妊娠率を対象群と比較した。平成6年度は,引き続いて0.1%セボフルランへの暴露を行い例数を12とした。また,別の12匹をセボフルランと同様に0.1%イソフルランに暴露してから妊娠率を求めて,対象群と比較した。なお,対象群12匹は空気のみに暴露した、さらに,8匹ずつ,同様にセボフルラン,イソフルラン,および空気のみに暴露して,月経周期を観察した。その結果,セボフルラン暴露群,イソフルラン暴露群,および対象群の妊娠率は,それぞれ,83%(12匹中10匹妊娠),83%,および92%(12匹中11匹妊娠)だった。一方,月経周期の異常を示したラットは各群8匹中,それぞれ,1,2,および1匹で差がなかった。対象群と比べて妊娠率が低下する傾向にあったが,セボフルランやイソフルランのような揮発性麻酔薬は,低濃度の長期暴露を行っても,亜酸化窒素ほど,ラットの妊娠率に影響を及ぼさないようである。また,揮発性麻酔薬は月経周期にも影響を及ばさないようである。一部ラットに月経の異常は起きたが,揮発性麻酔薬の影響は否定できないものの,むしろ実験環境に問題があったことが考えられる。
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