研究概要 |
GradeIII以上の逆流,あるいは腎瘢痕を持つ症例の正常部腎組織所見,これらの所見と腎機能の指標である蛋白尿,糸球体濾過値(以下GFR)との対比,経過観察,さらにDopamine testを加えることによって膀胱尿管逆流(以下VUR)患者の末期腎不全への臨床的分岐点について検討した。 腎瘢痕の進行に伴って腎の正常組織部分でも病変が進行するが,間質では瘢痕の程度に応じてほぼ直線的に,一方糸球体は両側の瘢痕がa/c(Smellieの瘢痕分類で両側の組み合わせ)で急激に増大(肥大)する。 糸球体の肥大程度と蛋白尿の増加,GFRの低下はよく相関した。これらの所見から逆流性腎症が末期腎不全への不可逆性過程へ進行するturning pointは糸球体肥大が2S.D.(同年齢の標準偏差の2倍の肥大),相関式から尿蛋白は100mg/日,GFRは70ml/min.,かつ両側腎瘢痕の程度がa/cであると推定した。 この結果をもとに,腎生検を施行した95例について最長11.5年の臨床経過観察を行ったところ,(1)100mg/日以下の蛋白群では瘢痕がa/cの症例を除いて悪化するものはなかった。(2)増悪群10例のうち9例はGFRが72ml/min.以下,(3)瘢痕bをもつ腎は5年後に瘢痕cへ移行,(4)経過中増悪した3例で2回目の生検で糸球体サイズが明らかに増大していた。以上の点から両側の瘢痕a/bの組み合わせも腎不全へ進展する危険性があり,安全な領域はa/aと結論した。その他の指標に修正の必要を認めなかった。増悪進行群はすべて両側瘢痕がb以上で,高血圧を有し,うち5例は経過中に出現した。 低濃度dopamineも使用して糸球体肥大程度,尿蛋白を指標に前後のGFR,RPFを測定し,腎予備能をみた。まだ症例不足で十分な解析が出来ないが,糸球体サイズ2S,D.程度まではGFRの低下は少なく予備能は維持されていると推定した。しかし,4S.D.を越えるとdpamie等与前後のGFRは変化率が0に近づき,予備能が枯渇すると推定された。
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