研究概要 |
単一精子の囲卵腔内注入後の電気的細胞融合法による受精法の確立、ならびにこの方法で得られた受精卵の形態学的、細胞遺伝学的正常性に関し基礎的研究を行った。 1.マウス卵囲卵腔内に複数(3-10)の精子注入後、各種電圧、パルス巾、パルス処理時間など細胞融合条件に関し検討した。3.5kV/cmの直流電圧を10μsec印加後、2MHz、100V/cmの交流電圧を20秒印加条件下の受精率が25.5%と最も高率であった。しかし、受精卵の大部分に多精子受精を認め、精子核の膨化も不十分であった。また、卵細胞質障害も15.5%に認められた。 2.細胞融合前の卵のactivationの必要性に関し検討した結果、2MHZ,50V/cmの交流電圧10秒間印加後、1.5kV/cm,50μsecの直流電圧処理条件下で高率に卵のactivationが誘起された。activation誘起後、電気的細胞融合処置により20.5%の卵が前核期までの発育を示したが、その後の発育は認められなかった。 3.単一精子注入実験では、前述した卵のactivation誘起処置、細胞融合条件下で12.5%の卵が受精し前核期までの発育を認めたが、その後発育は停止した。 4.ヒト精子とハムスター卵の電気的細胞融合実験では、マウス卵と同様の条件下で3.0%に受精が成立した。しかし、前核期以降への発育が認められず、したがって受精卵の形態学的ならびに染色体分析は成功に至っていない。また、卵細胞質障害も15.0%に認められた。 以上の成績より、電気的細胞融合法を応用した安全かつ簡易な受精法の確立の可能性が示唆された。しかし、受精率、胚発育能の向上のため、至適細胞融合条件などさらなる基礎的検討の必要性が示された。
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