研究概要 |
上咽頭癌とEpstein-Barrウイルスの密接な関係に注目し、上咽頭癌頚部転移リンパ節のパラフィン包埋組織からポリメラーゼ連鎖反応(polymerase chain reaction,PCR)を用いてEBV DNAの増幅を行い、サザンブロットハイブリダイゼーション法にてEBV DNAの検出を試みた。14例中、12例にヒトβグロビンDNAが検出され、うち9例にEBV DNAの検出がみられた。EBV DNAの検出が見られた例は、世界保健機構の上咽頭癌病理組織分類別に見ると非角化型が4例、未分化型が5例であり、全例にEBV粒子抗原対するIgA抗体価の陽性が見られた。一方対照群として他の頭頚部悪性腫瘍からの転移リンパ節19例と反応性リンパ節1例を選んだ。20例中18例にヒトβグロビンDNAが検出されたが、EBV DNAは全例に検出されなかった。以上から、頚部転移組織からのEBV DNAの検出は上咽頭癌に特異的であった。上咽頭癌は、原発巣不明のまま頚部リンパ節転移を起こし、他の頭頚部腫瘍との鑑別が困難である場合がしばしば生ずる。そこでEBVゲノム保有上皮系細胞株NPC-KT細胞をヌードマウスに移植し、形成された腫瘍において穿刺吸引細胞診(fine needle aspiration biopsy,FNA)を施行した。FNABから得られた微小組織からPCR法を用いてEBV DNAの検出を行った。FNABに使用された穿刺針は23,21,18ゲージ針であるがいずれの針でもEBV DNAの検出が認められた。以上から原発巣不明頚部転移癌症例においてFNAB手技とPCR法を用いてEBV DNAの検出を行うことは、上咽頭癌頚部転移の分子生物学的補助診断法となり得ることが証明できた。なお、その感度はNPC-KT細胞の希釈系列を用いた簡易PCR法による実験結果から10^2個以上の癌細胞があればEBV DNAの検出が可能であった。
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