研究概要 |
網膜におけるドーパミン(DA)の存在が指摘されながら,その意義についてはほとんど未知のままである.本研究では脊椎動物網膜内におけるドーパミン(DA)の暗所視および明所視網膜機能における役割を検討する目的で,DAが網膜電図(ERG)におよぼす影響を調べた.まずウサギin-vivoERGにおいてDAがscotopic b波を減弱させ,その頂点潜時を短縮させるが,OPを増大させることを見出した.D_1およびD_2拮抗剤であるハロペリドール(HAL)はphotopic b波およびOPを減弱させることも見出した.これらの知見によりDAは暗所視機能を抑制し,杆体-錐体抑制現象の解除を介した明所視機能促進を媒介することが判明した.さらにウサギin-vivo30HzフリッカーERGにおいてDAは暗順応終了直後の振幅を増大させ,それに続く明順応経過中の振幅増大(漸増現象)を減弱させることも見出し,DAが暗所視系から明所視系への抑制の解除に関与すると推論された.さらに上記の漸増現象におよぼすDA拮抗剤の影響を検討し,漸増現象の発現にはDA作動性神経細胞が関与し,しかもD_2よりもD_1受容体を介する機構が主であると推論された.DAとSCH23390(D_1受容体拮抗剤)の同時投与ではOPの増大は見られなかったが,DAとスルピリド(D_2受容体拮抗剤)の同時投与では,DA単独投与の時と同様にOPは増大した.この結果より,OPの発生にはDAが関与しており,D_2受容体よりもD_1受容体を介した機序であることが示唆された.DA取り込み阻害剤であるノミフェンシン(NF)は100μMにおいてscotopic b波の減弱およびOPの増大というDA類似の効果を持つことが示された.DA1μMおよびNF30μMのいずれか一方のみではERGはほとんど変化しないことも見出しているが,DA1μMとNF30μMの同時投与はscotopic b波の減弱,OPの増大という相加的な作用を持つことが示された.これらの所見より,内因性DA放出量はERGを変化させうるに十分であることが判明した.
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