研究概要 |
膵胆管合流異常は日本人に特別に多くみられる膵管と胆管との奇形であり,特に,胆管の拡張を伴わない膵胆管合流異常は胆嚢癌の発生率が高率であるため,癌化に至るメカニズムの解明が急がれる。われわれはネコを用いた胆管拡張を伴わない膵胆管合流異常モデルを作製し,この実験モデルを用いて,膵胆管合流異常が胆嚢上皮の変性をもたらす機序を解明することを研究目的とした。ネコを用い全身麻酔下に開腹し膵管と総胆管を側々吻合して合流異常を作製した。胆道上皮をPCNA(Proliferating Cell Nuclear Antigen)に対する免疫組織染色を施工し,細胞動態を検討した。結果,胆嚢上皮粘膜は著しい細胞動態の亢進を示し,これは慢性炎症とは関わりないことが確認された。形態的には胆嚢上皮の過形成がこの結果生じることが示された。膵胆管合流異常における胆嚢上皮の癌化において細胞動態を亢進させるメカニズムが重要であることが示された。しかし,未だこの細胞動態の亢進が何によって調節されているか検討された報告はみられない。Transforming Growth Factor-α(TGFα)は胃,大腸,肝などの上皮細胞を増殖させる生理的なcytokineであり,胆嚢上皮の細胞増殖を亢進させる可能性があると考えられる。そこで,臨床例における合流異常の胆嚢粘膜におけるTGFαの発現を免疫組織学的に検討し,合流異常における胆嚢粘膜上皮の細胞回転の亢進と関係があるか検討した。結果,合流異常例においてTGFαは高い発現がみられた。またTGFαは弱いながらも正常胆嚢においても発現がみられた。すなわち,TGFαは胆嚢においても生理的なcytokineであり,胆嚢上皮の細胞増殖を亢進させる機序としてTGFαが関与している可能性が高いことが示された。
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