研究概要 |
小児固形腫瘍の発生においては癌抑制遺伝子の深い関連が知られているが,なかでも最も発生頻度が高い神経芽細胞腫における癌抑制遺伝子の関与についてはほとんど知られていない.現在まで十数個の癌抑制遺伝子が単離されているが,悪性腫瘍の多くに高率に関与している遺伝子としてp53が知られている.p53遺伝子は成人におけるほとんどの悪性腫瘍で高率に変異が検出され,とくに細胞の不死化や悪性化に関与していることが知られる.また一方,多くの腫瘍で突然変異が認められる癌遺伝子としてrasが知られている.構造の類似したN,K,Hの3種類が存在し,通常はコドン12,13,61の点突然変異により活性化される.活性型rasは変異型p53と共同して細胞をトランスフォームすることが知られている.そこで本研究では神経芽細胞腫36例を対象とし,これらのパラフィン包埋ブロックよりDNAを抽出し,突然変異の有無を検討した.p53遺伝子のexon5-8およびK-ras,N-ras遺伝子のcodon12,13,61領域を増幅するprimerを設計し,PCR-SSCP法を用いて突然変異を検索した.その結果,神経芽細胞腫では進行度,組織型,発生部位等に関わらずp53遺伝子およびras遺伝子の突然変異は関与していないことが明らかとなった.すなわち神経芽細胞腫の発生機序は成人悪性腫瘍とかなり異なっている可能性が示唆された.我々の報告に続いていくつか同様の報告がなされている.また,MDM2遺伝子の増幅については,抽出したDNAの断片化がひどく解析が技術的に不可能であった.現在まで神経芽細胞腫の原因遺伝子は明らかにされていないが,染色体分析の結果では,1q,14qに欠失が存在することが明らかにされており,ここに未知の癌抑制遺伝子の存在が予想されている.
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