研究概要 |
Inulin-like growth factorII(IGF-II)は神経細胞の分化に大きな役割を担っていると考えられている.また,Retinoc acid(RA)は神経芽腫細胞の増殖を抑制し,分化を促すことが知られている.そこで,RAによるIGF-IIの遺伝子発現調節について検討した。神経芽腫細胞SK-N-SHには通常IGF-IIのmRNAは殆ど認められないが,10^<-6>MのRAを3日間処理すると明瞭にIGF-IIのmRNAが認められるようになった.このようなIGF-II mRNAはRA処理後12時間で出現し始め,2-4日でpeakに達した.RAによるIGF-II mRNAの増加はdose dependentであった.10^<-6>M-10^<-5>Mの濃度でRAを処理したときに最もmRNAの増加が著しかった.このように,RAは,直接神経芽腫細胞に作用を及ぼす以外にも,IGF-II mRNAを介して間接的に作用を及ぼす経路もあることが示唆された. 次に,5種類のヒト神経芽腫細胞の浸潤性と運動性,及びN-myc遺伝子の発現を変化させた時のこの両者の変化について検討した.SK-N-SHにはN-myc遺伝子の増幅は認められず,浸潤性も極めて低かった.しかし,神経芽腫細胞IMR-32,GOTOは,それぞれ15copy,12copyのN-myc遺伝子の増幅がみられ,浸潤性もSK-N-SHのそれぞれ9.1倍,8.8倍と極めて高い値を示した.また,細胞運動性はSK-N-SHの2.3-1.9倍を示した.10^<-5>M,72時間のRA処理を行うと,N-myc遺伝子の発現も細胞運動性も著しく低下し,同時に浸潤性にも低下が認められた.このように,N-myc遺伝子の発現,細胞運動性,並びに浸潤性は密接に関係していることがわかった.
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