研究概要 |
加齢により生体の種々の生理機能が低下することは広く知られている事実である。歯科領域においても,唾液分泌機能の低下が指摘されており,この機序の一端を明らかにすることは,咀嚼や会話といった重要な口腔機能の低下を防止する意味でも重要な意義を持つものと考える。そこで私達は老齢(50-60週齢),成熟(10-12週齢),幼若(2週齢)ラットを用いて唾液腺の細胞膜上の受容体機能および刺激唾液の分泌と腺内血流量について調べた。 顎下腺および耳下腺のNa^+,K^+ATPase活性の変化を調べ結果,成熟群と比較して幼若群の酵素活性は両唾液腺とも低かった。また,老齢ラットの場合、顎下腺では著しい差は認められなかったが、耳下腺では活性の低下が認められた。一方,これらの腺の免疫組織染色を行うと,両腺のすべての週齢で導管部に強い局在が認められ,本酵素の局在の違いは認められなかった。また神経作働薬に対する受容体の親和性が変化しないこと,腺の細胞内カルシウム動員に週齢による差が認められなかった。 一方,顎下腺の分泌速度と血流量は,老齢群では成熟群に比べて刺激に対する反応の低下や遅延は認められなかったが、分泌および血流量を維持する能力が低下していた。尚,幼若ラットでは分泌および血流量が増加しなかった。幼若ラットでは受容体機能は整っていても,腺自体の発育が未だ不十分であることと考えられる。 以上のことより,ラット唾液腺では,加齢によるNa^+,K^+ほATPaseや自律神経受容体を構成する蛋白質自体の性質の変化は起こらず,腺組織の腺維化による影響や分泌の持続力低下が生じると考えられる。
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