研究概要 |
今回,歯周炎の歯肉局所におけるintercellular cell adhesion molecule 1(ICAM-1),vascular cell adhesion molecule 1(VCAM-1),およびendothelial leukocyte adhesion molecule 1(ELAM-1)といった細胞接着分子の発現異常の有無を明らかにすることを目的として,成人性歯周炎患者および健常者から歯肉組織を採取し,検討をおこなった。その結果,歯周炎患者歯肉において,ICAM-1は血管内皮細胞,単核球,および線維芽細胞に,ELAM-1は血管内皮細胞と一部の単核球に陽性所見を認めた。しかしながら,VCAM-1においては明らかな陽性所見は得られなかった。一方,切片作製時に得られる削除片よりRNAを抽出し,revearse transcriptaseによってcDNAとした後,ICAM-1,VCAM-1,ELAM-1およびインターナルコントロールであるβ-actinの各遺伝子に特異的なプライマーを用いてサーマルサイキュラーにて35サイクル増幅し(RT-PCR法),アガロースゲル電気泳動法にて解析した。その結果,ICAM-1およびELAM-1のmRNAの発現は,健常歯肉と比較して顕著に亢進していることが明らかとなった。また,免疫組織染色の結果と同様に,VCAM-1のmRNAの発現はごくわずかであった。以上の結果より,成人性歯周炎局所においては,特にICAM-1およびELAM-1が病態形成に関与していることが明らかとなった。 また,今回のもう一つの研究成果であるが,生体側にrisk factorが存在する場合には,歯周疾患が高度に進行することを低フォスファターゼ症の症例を通じて,細菌学的免疫学的解析の中で明らかにすることができた。一方,歯周治療が成功した場合には,歯周疾患の主因である歯周病原性細菌が減少し,それが患者の血清IgG抗体価に反映されることを示すことができた。歯周疾患のスクリーニングおよび歯周治療のモニターに血清抗体価が1つの有用な情報を提供してくれるのではなかろうか。
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