研究概要 |
I 目的. 従来の顎口腔系の異常習癖あるいは機能障害に対処するFeed back療法は、顎口腔の感覚と運動に関わる第V脳神経の入出力調節を第II、VIII脳神経系を介する上位中枢性の遠心性効果に依存している。実際、咬合治療上必要とされる、いわゆるBiofeed backとは、顎の運動や筋の放電に伴い逐次入力される筋、関節、歯からの体性感覚情報と顎の運動との、より緻密な関わりを基盤とする第V脳神経固有の入出力調節を意味する。 そこで本研究は、顎運動と、それに髄伴する脳電位の関わりをもって、固有感覚Feed backの客観的評価を試みた。 II 方法. 被験者は顎口腔系に異常を認めない健常有歯顎者7名と顎関節部に雑音を有する機能異常者7名である。脳電位の計測には、日本電気三栄社製 Biotop(6R-12)、又、加算処理にはSignal processor(7T-18)を用い、Sampling piont:1200,Sampling clock:3msec,Trig delay:-70%,Number of Times:40にて行った。また波形の取り込み開始は顎二腹筋前腹の前波整流積分波形の立ち上がりをもって同期させた。電極はC_Z,C_5′C_6′およびC_5′,C_6′それぞれの前方かつHand motorとC_Zとの延長線上に設定した。 III 結果. 1)健常被検において、顎二腹筋の放電開始約1200〜900msec前に脳電位が上昇し始め、開口開始前300msecから開口までの間には、急峻な電位として認められる。一方顎運動に関連する脳電位には、N+50,P+90,N+160,P+300などの波形成分が認められた。 2)クリック被検いおいて、顎二腹筋の放電低下並びに顎二腹筋放電開始300msec前の脳電位上昇に明らかな抑制が認められた。 以上の事から、顎機能異常者、なかでも顎関節クリック有雑音者における顎運動関連脳電位の変調は、顎関節部のクリック症状がもたらす顎関節、顎筋の固有感覚受容性低下と顎運動に関わる準備電位の低下とがあいまって生じるものと推定された。
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