研究概要 |
細胞間マトリックスは細胞間あるいは臓器間を有機的に連結する生体に不可欠な構成成分であり,石灰化や繊維化の過程の制御,創傷治癒,細胞機能の調節等に重要な役割を果たすことが注目されている。口腔領域においても諸組織における細胞間マトリックス成分の検索が進められつつあるが,なかでも歯肉溝浸出液(GCF)中の細胞間マトリックス成分は歯周組織の状態を反映していると考えられるために,その解析が待たれている。しかし,個々の歯牙単位のGCF中の細胞間マトリックス成分の動態は対象とする試料が微量なため未だ明らかにされていない。そこで本研究では,細胞間マトリックスの主要な基質成分であるグリコサミノグリカンの微量解析法を検討し,インプラントを植立させたヒトのGCFを試料としてその応用を試みた。 GCFから常法に従ってグリコサミノグリカンを抽出し,さらに特異酵素で消化して生成するコンドロイチン硫酸由来不飽和二糖を蛍光修植後,高速液体クロマトグラフィーで分離定量した。その結果,健常組織のGCFから微量のコンドロイチン硫酸由来不飽和二糖を検出することが出来た。歯周疾患羅患部GCFの不飽和二糖はDELTADi-4SとDELTADi-0Sが主で,健常組織GCFのそれに比較し,著明に高かった。また,正常ヒトインプラント周囲組織から流出するGCFの不飽和二糖はDELTADi-0Sが主成分で,次いでDELTADi-4S,DELTADi-6Sであり,天然歯を有する健常組織GCFのそれに比較しDELTADi-0S量が有意に高かった。健常組織GCFとインプラント周囲組織から流出するGCFのDELTADi-4S/DELTADi-6S比は歯周組織,特に硬組織のそれとほぼ同じ値であった。このことは歯周組織なかでも硬組織構成コンドロイチン硫酸がGCF中に流出していることを示唆していると考えられる。今後はこの測定システムをさらに改良し,インプラント周囲炎の病態の定量化,ならびにインプラント予後観察に応用していきたい。
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