研究概要 |
扁平上皮癌を含む各種口腔粘膜病変におけるras p21,EGFRおよびc-erbB2蛋白の発現について免疫組織学的に検索したところ正常口腔粘膜上皮,白板症と比較して扁平上皮癌の組織においてras p21,およびEGFRの発現の亢進が考えられた。c-erbB2蛋白の発現に関しては一部の癌症例において陽性所見を認めるのみであった。これらの蛋白をコードする遺伝子の変異については分子生物学的手法を用いて検索し,ras遺伝子に関しては制限酵素Msp IによるRFLPsを利用した方法では扁平上皮癌症例の一部にH-ras遺伝子のcodon12に点突然変異が想定されたが,direct sequence法およびSSCP法の結果からはいずれの癌症例においてもH-ras,H-ras遺伝子とも遺伝子変異は認められなかった。c-erbB1に関してはPCR法で増幅させた後,Southern hybridization法により検索した結果扁平上皮癌症例の30%においてその増幅を認めた。これらの症例はすべてStage Iであり,c-erbB1の遺伝子変異は口腔の扁平上皮癌の早期に関係する可能性が示唆された。唾液腺腫瘍における免疫組織学的検索では多形性腺腫,腺様嚢胞癌および粘表皮癌いずれの症例においてもras p21に対する強い陽性反応を認めた。また、腺様嚢胞癌ではEGFRよりもc-erbB2蛋白の発現の亢進が考えられた。遺伝子変異に関する検索では多形性腺腫においてTGGE法でK-ras遺伝子の変異が考えられたが,腺様嚢胞癌におけるc-erbB1ならびにc-erbB2の増幅はSouthern hybridization法により認められなかった。これらの結果に加えて,扁平上皮癌を含む各種口腔粘膜病変におけるp53蛋白の発現およびp53遺伝子の変異について検索したところ,重度の上皮異形成および扁平上皮癌の3分の1の症例で異常発現および遺伝子変異が考えられ,dysplasia-carcinoma sequenceの早期においてp53遺伝子の変異が関係することが示された。
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