研究概要 |
本研究は精神鎮静法における鎮静深度の指標としてのmedian EEG frequencyの有用性を検討することを目的として行った. 基礎的研究として,吸入鎮静法,静脈内鎮静法について脳波のパワースペクトルから算出されるmedian EEG frequencyと周波数帯域別構成比の推移を検討し,吸入笑気濃度あるいは他覚的鎮静状態,diazepamあるいはmidazolam静脈内投与後の各指標の推移を検討して,これらの指標が鎮静状態を反映した推移を示すことを確認し,続いて臨床での検討として精神鎮静法下の歯科治療時の推移を治療内容あるいは患者の他覚的所見と比較検討した. この結果,基礎研究における低濃度笑気吸入において一般的に至適鎮静の得られる20〜30%笑気吸入においてmedian EEG frequencyは5〜6Hzを示し,睡眠状態となる40%笑気吸入では5Hz以下を示し,diazepamあるいはmidazolam静脈内投与においては,投与初期にmedian EEG frequencyの上昇が認められた後徐々に低下し,鎮静状態の間,安定した周波数を示した.また,周波数帯域別構成比では笑気吸入によりα成分と徐波成分の増加と速波成分の減少,benzodiazepine誘導体投与により投与初期の速波成分の増加,以後鎮静状態が持続する間のα成分の増加が認められた.このことからbenzodiazepine誘導体投与における初期のmedian EEG frequencyの上昇はbenzodiazepine誘導体に特有な速波によるものと考えられた. また,臨床における検討においては,benzodiazepine誘導体によるmedian EEG frequencyの上昇があるものの,鎮静状態では安定した周波数を示し,疼痛や鎮静効果の減弱した時期に応じて周波数のピークが生じた. 以上から,median EEG frequencyは精神鎮静状態,疼痛などのよるストレス状態を反映した推移を示すことが推察され,benzodiazepine誘導体に特有な速波の影響を除外できるmedian EEG frequency算出プログラムを今後検討しなければならないが,median EEG frequencyは吸入鎮静法あるいは静脈内鎮静法における精神鎮静状態の指標として有用であると考えられた。
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