研究概要 |
テングタケ(Amanita pantherina)およびドクササコ(Clitocybe acromelalga)からグルタミン酸のアゴニストあるいはアンタゴニストを探索し、以下のような結果を得た。 1)テングタケの酸性アミノ酸画分から2種のNMDA受容体アンタゴニスト、(2R,1'R)-および(2R,1'S)-2-amino-3(1,2-dicarboxyethylthio)propanoic acid(ADPA)を単離した。また、フマ-ル酸とD-あるいはL-システインからADPAの4種の立体異性体を合成し、受容体結合実験と電気生理学的手法によりNMDA受容体に対する活性を比較したが、異性体間で活性の差は認められなかった。 2)ドクササコからはグルタミン酸の強力なアゴニストで強い神経興奮作用をもつアクロメリン酸A、Bとその類縁体、アクロメリン酸Cが単離されていた。今回、さらに2種の類縁体(アクロメリン酸D、E)とアクロメリン酸類の芳香環部分の生合成前駆体と考えられていてキスカル酸サブタイプの選択的競合的遮断薬でもあるスチゾロビン酸とスチゾロビニン酸を単離するとともに、神経毒として知られているβ-シアノアラニンとそのγ-グルタミルペプチドも単離、同定した。さらに、グルタミン酸と他のアミノ酸が同一窒素を介して結合している、いわゆるオパイン類に属する3種の新規アミノ酸を単離し、対応するアミノ酸とα-ケト酸を還元的に縮合する方法で化学合成することにより絶対配置を含めたそれぞれの構造を決定した。担子菌からオパイン類が単離された例は少ない。本菌による中毒が極めて重篤で複雑な症状を呈するのは、このように神経系に作用する多種類の化合物の総合的な作用によるものと推定される。今回単離されたオパイン類も分子中にグルタミン酸構造をもつことから、グルタミン酸レセプターに対して何らかの作用をもつ可能性もあり、今後、この点について検討する予定である。
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