研究概要 |
大腸粘膜のバリアー能について、透過し得る分子サイズの小腸粘膜との差を明らかにするため、水溶性化合物で分子量の異なるpolyethylene glycol(PEG)300,600及び1000を用いて、in situループ法によりラット小腸及び大腸からの吸収を検討した。用いたPEGはそれぞれ分子量300,600及び1000を中心に、重合度の異なる各種分子量のPEGの混合物である。その結果、小腸では分子量600付近まで吸収が認められるのに対して、大腸では分子量300以上では吸収は困難であった。これらのPEGについては細胞間隙を通るいわゆる経細胞側路が考えられるが、両部位での透過可能な分子量すなわち分子サイズの差は細胞間隙の大きさの違いに基づくものと思われる。この点については電気生理学的解析によっても裏付けられた。また、細胞間隙の帯電状態の違いも示唆されたが、細胞間隙に作用する吸収促進剤EDTAの作用はその帯電状態への影響も含むことが明らかとなった。 一方、経細胞路の透過性は薬物の親油性に左右されるが、小腸と大腸では吸収の親油性との関係に違いが見られた。3種のアシルサリチル酸を用いて吸収実験を行った結果、小腸部の方が大腸部より極めて吸収がよく、大腸の中では結腸の方が直腸より吸収が良好であった。これは大腸よりも小腸、特に小腸上部では吸収表面積が大きいことが寄与していると考えられる。また、どの部位でもアシル鎖が長くなるに従って吸収が良好になっているが、小腸部では親油性が増しても、吸収が頭打ちになった。そこで、親油性の異なる2種類の薬物acetaminophen とindomethacinの吸収を評価したところ、高親油性薬物の場合には小腸と大腸で吸収速度に差がなくなることが分かった。これらの現象は粘膜表面近傍に存在する非攪拌水層の抵抗の部位差で説明することができた。
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