研究概要 |
病原細菌の主要群であるグラム陰性細菌は、染色体性のセファロスポリン分解型クラスCβ-ラクタマーゼを生産し、オキシイミノ系の第3世代セファロスポリン剤にも高度耐性を示す.β-ラクタム剤耐性菌制圧のために多数のβラクタム誘導体やβ-ラクタマーゼ阻害剤が開発されたが、クラスCβ-ラクタマーゼ生産菌の制圧には成功していない.これはこのタイプの酵素の活性中心構造とその機能についての理解がきわめて乏しいためである.本研究はCitrobacter freundiiが生産するセファロスポリン分解型クラスCβ-ラクタマーゼの活性中心構造とその機能について、部位特異的変異導入法により解析した.活性中心ポケット表面に存在すると予想される一連のアミノ酸座位の変異酵素を作出し、機能アミノ酸残基の検索を行った.この結果、既に明らかにした触媒機能残基Ser64,Lys67,Lys315のほかに、新たにTyr150を触媒反応の重要機能残基として同定し、各残基の触媒反応における役割を明らかにした.さらに保存性Asn152が基質結合に関与するアミノ酸残基であることを発見した.一方、以前の研究で発見したGlu219ループ領域のアミノ酸変異によるオキシイミノ系セファロスポリン剤分解活性上昇現象を酵素化学的に究明し、これが変異による酵素-基質アシル中間体の安定性の顕著な低下によることを明らかにした.この知見は、1アミノ酸置換によってこの酵素がより協力なセファロスポリン分解酵素に分子進化することを示している.また分子動力学計算を用い、酵素-基質相互作用のシミュレーションを行って、β-ラクタム剤とβ-ラクタマーゼ活性中心との相互作用を3次元的に考証した.以上の成果から、クラスCβ-ラクタマーゼの触媒反応機構の詳細なモデルを提唱することができた.本酵素の活性中心構造と機能が分子レベルで理解できたことによって、今後の新タイプのβ-ラクタム剤開発に理論的ドラッグデザインの道を開き、さらには新型耐性菌の性質予測とその対策にも大きく貢献できると考えられる.
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