研究概要 |
我々は,マウスにエタクリン酸(EA)の脳室内投与を行い,反復性間代性強直性痙攣が誘発されることを見いだしている。本研究では,この痙攣性神経興奮に付随しておこる遺伝子転写の変化を明らかにするため,興奮-転写変化の連関に深く関わっていると考えられる最初期遺伝子c‐fosの発現について詳細に検討した。 EA投与後の各経過時間(0,15,30,60分,24時間,7,10,14,21日)の全脳からRNAを抽出し,ジゴキシゲニンでラベルしたc‐fos cDNAプロ-ブを用いてノ-ザンブロットにより分析した。C‐fosのmRNA量は30-60分後にピ-クに達した後減少し,24時間でほぼ元のレベル戻った。しかし,その後再び7日後から増加し10-14日後にピ-クが見られた。EA投与後30分および7日後のc‐fos発現の脳内分布をin situ hybridizationにより分析した。30分後,7日後共に,海馬,大脳皮質および扁桃にmRNAシグナルが著明に検出された。両経過時間間では海馬内分布に差があり,また,30分後に扁桃が,7日後に皮質がより強く染色された。免疫組織化学によりFos蛋白質について解析したところ,上記と同様の経時的変化,脳内分布を示した。NMDA受容体阻害薬2‐aminophosphonovaleric acid(APV)および抗痙攣薬ジアゼパム,フェノバルビタ-ル,バルプロン酸をそれぞれ腹腔内に前投与した後,EA投与を行うと全例に痙攣の消失および30分後のmRNA量の減少が見られた。同処理例14日後のmRNA量についても検討中である。 以上の結果より,EA脳室内投与後のc‐fos mRNAの増加の様式は,痙攣の発現に一致した初期相と10-14日後をピ-クとする後期相からなることが明らかになった。今後,両増加相においてFos蛋白質により転写の制御を受ける遺伝子を明らかにし,その発現と痙攣発生または準備状態との関連について解析したい。
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