研究概要 |
我々は過去18年間に約4,000例の先天代謝異常を疑った患者のいわゆるメタボリック・プロフィル(MP)をもとに110項目の先天代謝異常症の化学診断を行ってきたが、その中で高乳酸血症は800例と最も多かった。これらの早期鑑別診断は心身障害発症の予防に極めて重要である。今回以下の知見を得た。 1.ミトコンドリア(Mt)DNA異常症のひとつMELASでは核DNA異常による電子伝達系(ET)異常症と異なり、ET複合体IIを除くマルチプル欠損のため、慢性の脂肪酸異化亢進とケトン尿を認めた。脂肪酸異化は3-ヒドロキシ体から3-オキソ体へのNAD^+依存性脱水素反応が特に抑制され、これらから誘導される3-ヒドロキシジカルボン酸(3HD)が著増していた。同じくMtDNA異常症のピアソン症候群でも3HDは著増しており、一見、先天脂肪酸代謝異常症にみえたが、著明かつ慢性の高乳酸血症も認め、のちにピアソン症候群と確定されている(山口ら)。 2.ピルビン酸脱水素複合体活性化障害を有する19才の女性のMPを解析した。クエン酸投与で高乳酸血症の改善はみず臨床像は改善された。その理由としてクエン酸はATP産生を増量するもクエン酸1分子は乳酸1分子を生成するためと考えられる。これに対し、アセチル-CoAの前駆体となる酢酸ソーダ(アクチット)点滴では血中乳酸は速やかに正常値にまで低下した。この場合は乳酸の生成なしにATP産生増加のみならず、ピルビン酸(従って乳酸)のオキザロ酢酸を経由しての消費も期待できるからと考えられる。 3.糖新生系異常症のフルクトース-1,6-ジフォスファターゼ欠損症1例で3-メチルグルタコン酸尿症を認めた(未発表)。 4.グルタル酸尿症I型のヘテロ(キャリア)をMPにより検出できることを確認した(未発表)。
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