研究概要 |
居住環境中の色彩における高齢者の嗜好と弁別能に関して検討し、色彩に対する感情効果を考慮に入れた、快適で、より安全性の高い生活色彩環境の追究を目的とした。 実験・調査対象は広島県下の特別養護老人ホーム(収容人数100名,居室34室)とし、日常生活上の不自由が比較的少なく、対話可能な女性9名(平均年令79.3歳)を被験者とした。色彩嗜好性については、色刺激としてカラーコードダイアグラム・中分類(92色)を用い、各被験者に個別に提示し、嗜好色と嫌悪色を各5色ずつ選択させた。色彩弁別については、40hue testを用い、ランダム配置の色票を色相環になるよう順に並べかえさせた。居住環境の色彩については、機器測定(分光測色計,色彩輝度計を使用)を行った。高齢者の色彩嗜好は、明度と彩度が大きく影響する。特にTINT(pale,light,bright),PURE(vivid)などが好まれ、逆にSHADE(dark),MODERATE(dull),GRAYISH(light grayish)などが嫌われる。色相嗜好の偏りはほとんど認められず、生活環境や社会環境による個人差は比較的少ないと考える。色彩弁別能は、すべての被験者で“劣る"と判定され、混同線による類型別では、青黄異常が多く、加齢に伴う色覚の変化が顕著に認められた。居住環境の測色(78ケ所)では、59%が40hue testの色相環(L^*=57±2,a^*=±20,b^*=±20)の内側に入り、19.2%が黄系(a^*=±20,b^*>+20)であった。即ち、高齢者にとっては「見分けにくい色」や「白と混同しやすい色」が多いことを示している。輝度測定(123ケ所)では、82.1%が100cd/m^2以下であったが、本研究の被験者の生活スタイルを考慮した場合、問題は少ないと考える。 以上から、高齢者の居住環境の色彩としては、青系や黄系をなるべく除外した色相で、TINT〜PUREにトーン分類される色の有効性を認めた。
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