研究概要 |
19世紀80年代には古典物理学の諸領域-力学,熱力学,分子運動論,電磁気学-での理論的体系化(数学的定式化や実験的検証等)が一定程度完了して広く受容され,広範な現象・過程ヘと適用する研究が展開された。一方で、現代物理学の形成につながるX線・電子の発見,熱輻射,原子構造論等の研究が展開されていく。このような古典物理学の完成期から現代物理学成立への物理学の転換期の諸相が本研究によって一定明らかになってきた。この期の一つの流れは,力学,電磁気学,熱力学の古典物理学を最小作用の原理(解析力学)を基礎に統合するHelmholtz等の試みである。これに対してPoincareが1892年の著作で詳細な検討を行い,非可逆過程についてはHelmholtz理論では取扱えないことを論証している。筆者は,これを調査・検討して,この期に非可逆過程の理論的把握の問題が,Poincareによって基本的な課題として浮きぼりにされたことを明らかにしてきた。また,1900年に量子論形成の端緒を築いたPlanckも,1908年のライデン講演,1909年のコロンビア大学での連続講義の中で,物理学の基本的区分を可逆過程の物理学と非可逆過程の物理学とみなす考え方を展開した。この思想を軸に,熱力学,分子運動論,熱輻射論等を論じた後者の連続講義の内容は,当時の物理学転換期における一つの物理学像を知る上で極めて興味深い。本研究において,これを含めたPlanckによる物理学全体の把え方をかなり詳しく検討することができた。Duhemによる熱力学ポテンシャル論の展開を含めこの時代の物理学展開の諸相が明らかにできるものと考えている。現在,研究論文を準備中である。
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