研究概要 |
運動機能の大脳半球優位性は,右脳は空間的(Carsonら,1990),左脳は時系列的(Truman&Hamond,1990)課題に優位性を示すことが認められている。この大脳半球優位性は,左右の手が対側大脳半球によって支配されるとする交叉性神経支配(神経構造モデル)だけでなく,大脳半球の反対側空間への交叉性注意機能(注意モデル)からも解釈されるようになってきている。本研究では,栂指の位置決め動作パフォーマンスに対して解剖学的な交叉性神経支配(手の左右差)あるいは空間への注意機構としての交叉性支配(動作空間の左右差)のどちらによって半球優位性が示されるのかを実験的に検討した。動作空間は身体正面での栂指動作を左右90°頭部回旋位条件下で行わせる方法で規定した。運動課題は左右の栂指による位置決め再生で,その正確性と偏向性を検討した。その結果,栂指動作の方向が頭部回旋方向と一致する場合はundershoot,逆方向ではovershootといった傾向が左右いずれの栂指動作にも顕著に観察された(Brain&Cognitionへ投稿中)。さらに,頭部回旋に伴う頸部筋群や前庭器官からの感覚入力による脊髄運動細胞興奮性の影響を検討するため,栂指筋群の随意収縮(10%MVC)中に誘発したH反射を左右頭部回旋について観察したが,頭部回旋のH反射への影響はほとんど認められなかった(Neuropsychologia,印刷中)。したがって,顕著なundershoot‐overshoot傾向には大脳半球の交叉性注意機構が関与している可能性が残されているが,これに関しては,左右頭部回旋位条件下での反応時間課題を用いて左右大脳半球の緩電位(DC成分,CNV)の頭皮上分布を検討してきたが,これまでに得られた結果には個人差が大きくあらわれ,未だ結論を出すには至っていない。現在,さらに被験者数を増やして実験を継続しているところである。
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