北海道のオホーツク海沿岸は、1月中旬から3月下旬頃まで海氷に覆われる。海面が海氷に覆われると、海面から大気中への熱供給が弱まり、また、海面におけるアルベドも増大する。これらの原因により、海面が海氷に覆われた後の沿岸地域の気温は、著しく低下する。本研究においては、この気温低下の効果を、定量的に把握することを目的とした。 これまでの研究では、海氷による沿岸地域の気温低下量を把握するために、内陸の地点を基準にすることが多かった。しかし、この内陸の地点も、メソスケールの大気現象による影響を受けるため、気温低下量を定量的に把握することは難しかった。そのため、沿岸地域における気温低下は、海氷によるものなのか、それとも沿岸に海氷を運んでくる北寄りの気流によるものなのか、という疑問が残されていた。そこで本研究においては、高層の気象データを基準にして、海氷による気温低下量を定量的に把握することを試みた。北大低温研附属流氷研究施設で、海氷のレーダー観測を実施している枝幸、紋別、網走の3地点を研究対象地域とし、この3地点における1986年以降の海氷データ、アメダスによる地上の気象データ、および稚内と根室の高層気象データから推定したそれぞれの地点の高層気象データを用いて解析した。 その結果、明らかになった主な点は、次の通りである。(1)海面が海氷に覆われていない場合には、地上の気温と500hPa高度までの気温は、類似の変化傾向を示す。(2)海面を海氷が覆うようになると、海面付近の大気の冷却が進行する。特に、晴天・弱風で、海面が100%海氷に覆われた場合には、沿岸地域における地上の気温は10℃程度まで冷却し、その冷却の効果は、800hPa高度付近までおよぶ。
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