研究概要 |
本研究では,数学の問題解決に必要な戦略的知識の獲得を支援するシステムの研究を行った.ここでいう戦略的知識とは,定義・定理・公式と言った数学的知識に対するもので,与えられた問題に対して,既得の数学的知識をどのように適用するかという問題解決の本質的な部分に関する知識である.これは,学習者に於てきわめて個人差の大きな部分であるため,従来の集団授業をベースとした教授形態の中では,積極的な指導が困難であった.しかしながら.高度情報化社会に於て,氾濫する情報の中から,適切な情報を戦略的に選択・活用し,問題を解決する能力を持つ人材の育成は強く求められている.このような現状を踏まえ,本研究では,コンピュータの持つ対話性を活用し,論理的・分析的態度と創造的意欲をもった問題解決者の育成の一助となるシステムのプロトタイプの構築を試みた.研究の目的は,1.問題解決過程の分析,2.教材分析,3.学習支援方法の研究,4.具体的システムの試作,5.システムの評価であった.1,2に於ては,単なる公式適用型の教材ではなく,問題解決戦略の立案及び,それに沿った数学的知識の適用を必要とする教材を開発・収集を行った.並行して3に於て,戦略的知識の獲得に対する支援方法の研究を行った.戦略的知識の獲得に於ては,一方的な教授よりも,学習者の自発的思考と,それに基づく問題解決経験を与えること,また戦略的知識の有効性を実感させることが重要である.その意味で,過度の学習誘導は好ましくなく,コンピュータを用いた学習支援に於ても,学習進行を常に学習者主導に保つように留意する必要がある.この点は従来のCAIシステムに於て十分に実現されていない点であり,適切なコンピュータ活用の方法を模索することは有意義であると考える.3の考察を受け,4で具体的システムの構築を試みた.ここでは,新しい形態のマルチメディアの活用に重点を置いた.従来マルチメディアシステムと呼ばれていたものは,教材提示用の各種周辺機器をコンピュータ制御する形態のものが多かったが,技術進歩により,テキスト・音声・静止画像・動画像等をコンピュータ・データとして統合的に管理・再生することが可能になりつつあり,メディア・インテグレーションという用語で従来のマルチメディアとは区別している.問題解決に於て学習者に与えられるべき支援は,過度に論理的な解説よりも,適切な知的刺激となる直観的・感覚的な情報である.その観点から,この種の新技術の教育活用の可能性をも探って行く.5では試作したシステムの評価手法の開発を行った.
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