研究概要 |
1993年度,われわれは,力学分野の各単元別理解度に関する調査を行った。その結果,現在の高校生や大学生は,『力のつりあい』『物体の運動』『運動の法則』についての観察・実験などの探究的経験が稀薄である旨報告した。生徒自身が持っている視点(プリコンセプション)を十分に配慮し,事象をイメージ化する概念形成のためのプログラムが最も重要であることを主張した。一方,物理教育においては事象の定量的な理解の前に質的な理解が必要であることや物理的な学習の興味を起こさせる指導の工夫の大切なことも強調した。 1994年度は,前年度の結果を基に「変化する運動の量の理解」を引き出すための実験授業を行った。従来運動の第2法則 ma=Fの学習に際しては,「力」,「重さ」,「加速度」などの個別的な理解を前提とした法則性を調べている。しかし,自由落下,完全非弾性衝突,運動の第2法則とつづく一連の実験探究活動こそが「力」と「運動の量」の緊密な関係を強くイメージ化し,認識させる過程である。ここに実践する実験は自由落下運動(実験1),完全非弾性衝突(実験2),運動の第2法則(実験3)とし、「質量」と「速度」を重要な「運動の量」に位置づけ,この量と「力」との関係に深く立ち入らしめる動機づけについて考察した。また,観察・実験を通して概念形成を行う学習過程において生徒が教師との間に交わすKR情報の諸相を分析し,教師が適切な時期に十分な指導助言をリアルタイムに与えることが可能であり、生徒個人が必要に応じてマルチメディア教材等を活用することができるインターネットワーク環境の研究と探究活動を進める上での創造的思考のはたらきを調べるために,対象とする生徒に標準化された創造性検査を実施し,物理の評価と創造性評価を関数とした生徒の物理概念形成の過程を調べた。ここに報告する内容は,物理概念形成過程の一部分であり今後も更に研究を続ける必要がある。
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