研究概要 |
本研究は,成人の音楽活動に対する学校の音楽科教育や課外教育,学校外の私的音楽教育等の位置づけを行なうことを目的としたものである。この2年間の研究では,とくにアマチュア合唱団団員を対象に過去の音楽学習・音楽活動歴に関する質問紙調査を実施し,活動への参加と継続の過程を分析して,以下の諸点と今後の研究課題を指摘した。 アマチュア合唱活動参加者は,音楽面と生活面の二層の精神的便益を得ることを目的として,活動に参加している。こうした活動への参加者の多くは、学校の音楽科教育や課外教育に強く適応できた2〜3割の層から輩出されており,公的教育部門はこれらの層に対しては,とくに音楽への興味や愛好心というような精神的な側面に関して,一定の機能を果たしているといえる。しかし,一方でアマチュア合唱活動参加者の多くは私的教育部門を通じて音楽的技能や知識を習得しており,公的教育部門への強い適応性も,実はこうした私的教育部門によって支えられていた結果であるともいえる。この点に関しては,音楽の公的教育部門と私的教育部門がどのように役割分担されてきたのかについて,教育内容面にまで踏み込んで検証していく必要があろう。さらに,アマチュア合唱活動参加者はコンサートなどの音楽の鑑賞経験も一般に比べて豊富であるが,こうしたことが学校の音楽科教育への適応性の結果としてあらわれたことなのかどうかについても検討する必要がある。 また,アマチュア合唱団参加者が学校時代に公的教育部門に強く適応していた層であるとするならば,このような強い適応性を示さなかったその他の層は,成人になってどのような音楽生活をおくることになるのだろうか。これらを明らかにしていくことは,音楽の享受部門,即ち一般公衆の音楽活動に対して,教育部門がいかに作用するのかを知ろうとするうえで是非とも必要なことである。
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