研究概要 |
交通事故は,自動車や船舶,航空機を取り巻く交通環境(道路・海域・空域特性,周辺の交通状況,気象,海象・日照といった自然条件等)および操縦行動(操縦者の情報収集・判断・操縦特性等)と密接に関係している.道路,航空,海上を問わず,従来の交通事故分析は事故発生率と個々の要因の関連を統計的に整理したものが多く,事故と諸要因との「相関関係」を見出しこそすれ,「因果関係」を抽出するものではなかった.そこで,本研究では,事故発生の因果関係に基づく効果的な事故防止対策の策定に資するため,海上交通や航空交通等に関する過去の事故記録を収集し,これに基づいて交通事故の発生構造を同定する方法論を提案することを目的として検討を行った. 本研究では,分析の基本となる枠組みを危険度解析手法のひとつであるFTA(Fault Tree Analysis)に求めている.FTAを実施するに当たっては,従来からFTそのものを構築することの困難性が指摘されてきたが,その解決を図るため,まず,過去の事故調査記録からシステマティックにFTを作成する手法を提案した.提案した手法を用いて海上衝突事故および航空機地上衝突事故の比較的包括的な事故発生構造を同定することができた.しかし,その適用に際して,ある種の事象の生起の有無を識別することの困難性が指摘されたため,FTのファジィ化を図ると共に,構造重要度の概念を拡張した.これらの新たな提案を上述のFTに適用し事例分析を行い,事故防止対策の組み合わせ効果や単純な操縦ミスが事故につながらないためのシステム整備等,今後の事故防止対策に有用となる種々の知見を得ることができた.
|