研究概要 |
スギ花粉アレルギー(花粉症)は異物抗原に対する特異的IgE抗体の産生異常が原因となる免疫疾患で,その患者数は近年急増している。我々は,国内各地のニホンザル群にヒト同様の花粉症が見られることに着目し,ニホンザルにおける花粉症の発症状態やスギ特異的IgEの抗体産生を指標に,スギ花粉症に関わる環境要因とその影響を検討しつつ,近年の花粉症急増要因の究明を試みた。 今年(H6年)度の研究においては,第一に,ニホンザルにおけるスギ特異的IgE抗体の高感度測定を可能にするために,ニホンザルIgEを認識する抗IgE抗体(F(ab)'_2)を用いたサンドイッチELISAを開発し,ニホンザル血液試料のスギ特異的IgE抗体の定量化の測定条件を確立した(日本実験動物学会第40回総会要旨集、1993)。 第二に、異なる地域の2群の野生ニホンザルを対象に,スギ花粉特異的IgEの抗体産生を指標にした環境因子による花粉症の増加影響について検討した。ヒトでは過去10年間でスギ特異的IgE抗体保有率は,8%から35%と4倍強に増大していた。一方,調査した2群のサルではヒトと同様に種々の環境因子に曝されているにも拘わらず,この間のスギ特異的IgE抗体陽性率の増加は全く認められず,10年前も今日も同レベルの8-12%の抗体保有率であった(JOHNS,1994)。 この結果は従来の考えとは異なる予想外のもので,ヒトにおける近年の花粉症の急増には,スギ花粉や自動車排気成分等の大気中因子以外の,他の環境要因の影響の方が強い可能性が示された。ことに,寄生虫感染率とスギ特異的IgE抗体保有率との逆相関が認められ,寄生虫感染とIgE関与のアレルギーとの関連が強く示唆された。寄生虫感染は従来からIgE産生応答を亢進することが知られており,寄生虫感染の低下と抗原特異的IgEの産生増大との関連性については,生体の免疫応答の制御機構を知る上でも関心を集めている。
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