研究概要 |
中等度好熱性細菌Bacillus stearothermophilusのプレニルトランスフェラーゼの一種,ファルネシル二リン酸(FPP)合成酵素の遺伝子クローニングを行い,その塩基配列を決定して,大腸菌内でこの耐熱性酵素を大量に産生する系を確立した.大腸菌の全タンパク量の約20%にまで産生されるようになったFPP合成酵素は,55℃で1時間の熱処理とブチルトヨパールおよびMonoQの2種のクロマトグラフィーにて,単一に精製される.大量に純化した酵素を用いて結晶化を試みたところ,蒸気拡散法,ハンギングドロップ法のいずれでも結晶を得る事が出来た.現在,東京工業大学の三木研究室との共同研究として,このFPP合成酵素のX線結晶構造解析を進行中である.この酵素の遺伝子の塩基配列に基づいて推定される酵素の一次構造を,既にクローニングされている6種のプレニルトランスフェラーゼ(FPP合成酵素4種,ゲラニルゲラニル二リン酸合成酵素1種,ヘキサプレニル二リン酸合成酵素1種)の一次構造と比較した結果,プレニルトランスフェラーゼには生物の種を越えてよく保存されている7つの領域(A-G)が存在する事が分かった.C末端部にあるG領域には塩基性アミノ酸が多く保存されているが,この部分に点変異を導入し,酵素活性の変化を解析した結果,この領域は基質イソペンテニル二リン酸(IPP)の結合部位に近い位置に存在している事が分かった.このことはさらに,G領域の上流部分に存在するCys-289とIPPの結合部位と推定されているB領域に存在するCys-73(このFPP合成酵素にはCysはこの2個のみである)への点変異導入の結果とも符合した.すなわち,この2つのCysは酵素活性発現には必須ではないが,Cys-289の点変異体ではIPPに対するKm値が野生型の酵素より著しく大きくなった.また,この酵素は酸化的条件下で容易にジスルフィド結合を形成する事も明かとなった.
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