研究概要 |
キョウチクトウ(Nerium indicum Mill.)葉には強心配糖体が高濃度に含有されており、葉を食草とするキョウチクトウスズメガ(Daphnis nerii L,以下D.nerii)の幼虫は強心配糖体を摂取し蓄積する可能性があるにもかかわらず、体色は明らかに保護色を呈している。幼虫が強心配糖体をいかに処理しているかを知るために、葉、幼虫、および幼虫の糞(以下frass)について強心配糖体の比較検討を行った。 葉、幼虫、frassの抽出エキスのHPLCによる比較を行い、さらに各々のエキスについて通常のカラムクロマトを行って含有強心配糖体の単離、同定を試みた。 葉においては主配糖体であるoleandrin gentiobiosideをはじめ、odoroside A,adynerin,D^<16>-adynerinなどがgentiobiose基を結合したtriosideとして得られたが、monosideとしても比較的少量のoleandrin,adynerin,odoroside A,D^<16>-adynerinなどが得られた。葉におけるoleandrinとadynerinの比は明らかにoleandrinが主配糖体であることが確認された。これに対し、幼虫およびfrassでは配糖体はすべてgentiobiose基が加水分解を受けてmonosideに移行している。またoleandrinは16位アセチル基も鹸化されてdeacetyloleandrinに変化していることが、oleandrinの減少、deacetyloleandrinの増加から明らかになった。この結果、幼虫およびfrassエキスでは、主配糖体は非活性のadynerin,次いでdeacetyloleandrinでありoleandrinは少なく、とくに幼虫のエキスではHPLCにおいても非常に低いピークが観察されるのみであった。したがって、虫体内の強心配糖体は質的にも毒性の弱い構成と考えられ、幼虫にとって保護色は必要と推定された。 Frassから得られたadynerinの収量は異常に高い値を示し、幼虫におけるadynerinは、キョウチクトウ葉の成分中もっとも高い濃度で虫体から検出されたursolic acidとともに、その虫体における意義についてさらに検討する必要がある。
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