研究概要 |
クロコウジカビ(Aspergillus niger var.macrosporus)が分泌する酸性プロテアーゼAは,従来知られているプロテアーゼとは種々の点で著しく異なる全く新しいタイプのプロテアーゼであり,3次元構造を明らかにすることは極めて重要である.蛋白質の3次元構造を決定する方法としては、X線結晶構造解析法と、多次元NMR法がある.X線結晶構造解析では分子全体の精密な3次元構造を明らかになるのに対して,NMR法では溶液中のゆらぎや部分構造を明らかにするのにも適している.以上の点を踏まえて本研究の目的は,X線結晶構造解析法と多次元NMR法の両法を適用することによって,未知の立体構造モチーフを含むと考えられる酸性プロテアーゼAの精密3次元構造,及びそのゆらぎについて解明することである.NMRスペクトルのpH依存性から,この蛋白質はpH4.5付近で構造変化を起こし,pH6以上で数残基のカルボキシル基の協同的解離により,不可逆的に変性することが分かった.またα水素のシグナルのうち水より低磁場側に位置するものが多いことから,この蛋白質はβシート構造に富むものであることが示唆された.さらに重水中で測定した2次元スペクトルで,200個ほどの指紋領域のシグナルのうち約100個が観測されることからこの蛋白質には堅固なコアが存在することが明らかである.この蛋白質の3次元構造とその動的性質を解明するために,^<13>C,^<15>Nで同位体ラベルした試料を調整し,3次元スペクトルを測定した.本酵素の結晶は,1.3〜1.5Aの高分解能までX線回折強度データを与える.3種類の重原子同型置換体を得て構造解析を行った.主鎖の2次元構造はαヘリックスがほとんどなくβシート構造に富んでおり,NMRの結果と一致した.また,分子全体の構造はクロワッサンの様な形をしており,分子量がペプシンの約1/2であるにもかかわらず,分子全体の形はペプシンに相似している.
|