研究概要 |
レチナ-ル蛋白質のシス・トランス光異性化の励起状態ダイナミクスの主要過程は数フェムト秒から200フェムト秒の超短時間で進行する。我々は、このような超高速の励起分子過程を詳しく解析するために、光吸収スペクトルのフーリエ変換法という全く新しい方法で解析を試みた。まず、第1の課題として励起状態ダイナミクスが温度によりどのような影響をうけるのかを調べた。すなわち、273,233,193,78Kの5つの温度でバクテリオロドプシンの光吸収スペクトルを精度よく測定し、そのフーリエ変換を行い、振動の波束の時間相関関数を求めた。その結果、30,90,150フェムト秒近傍では温度効果が著しく現れたが、他の時間域では温度効果がほとんどないという特異な結果が得られた。この現象を調和振動子モデルで解析したところ、20フェムト秒までは理論的に再現することが出来たが、それ以後の時間では全く再現することが出来なかった。このことは、光異性化のダイナミクスが、調和振動子モデルで記述できないことを示す。そして第2の課題として、レチナ-ルの13=14ボンドを固定したアナログを含む修飾型バクテリオロドプシンの励起状態ダイナミクスが自然のものに比べてどのように変わるかを調べた。光吸収スペクトルのフーリエ変換による解析を行った結果、修飾型では始めの30フェムト秒ぐらいまでの時間相関関数の現象は自然のものより少しゆるやかになったが、200フェムト秒までの全時間域についての概型はあまり変わらなかった。このことは13=14ボンドで光異性化が起こらなくても、他のボンドに大きな変化が起こっていることを示すもので、蛋白質とレチナ-ルの相互作用の機構について重要な知見を与える。今年度までに上記2つの解析結果を説明する理論を形成することが出来なかった。今後に残された課題となる。
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