研究概要 |
好中球のスーパーオキサイド産生酵素であるNADPH oxidaseが細胞内でどのようなシグナル分子により活性化/不活性化されるのかについて検討し,前者についてはホスファチジン酸(PA),後者についてはスペルミンが有力な候補であることを示した。 PAについてはこれが細胞膜を通過しにくいことから,好中球を電気穿孔して膜透過性を高めておいて検討した結果、次の事が明らかになった。1)PAによる活性化はCa^<2+>非依存性であること,2)活性化能は、PAのアシル基の短いものほど高いこと,3)短鎖のPAではわずか数μMで十分な活性化を引き起こすこと,4)至適濃度での活性化の程度は、生理的活性とほぼ同じレベルであること,5)PAがジアシルグリセロールに変化せずに活性化を引き起こすこと,などである。これらの結果は,PA自身が細胞内でセカンドメッセンジャーとして機能している事を強く示唆した。 スペルミンについてはこの細胞性ポリアミンがNADPH oxidaseを顕著に阻害することを,細胞レベル,無細胞レベル両方で示した。無細胞活性化に対するスペルミンの影響について詳細に検討した結果,次の事が明らかになった。1)阻害は10数μMのオーダーで起こること,2)代謝経路でスペルミンの前駆体にあたるアミン類では殆ど阻害しないこと,3)スペルミンは細胞質ゾル中のタンパク成分に作用していること,などである。そこで,3)について詳しく検討したところ,スペルミンは細胞質ゾル中の酵素サブユニットに作用することを見いだした。したがってスペルミンは酵素サブユニットに結合して酵素複合体の形成を妨げると思われた。 以上の結果からスーパーオキサイド産生は好中球の休止期においてスペルミンにより抑制され,刺激時にはホスファチジン酸のレベルの上昇により活性化されることが示唆された。
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