研究概要 |
膜翅目昆虫カブラハバチは、成熟未受精卵(未産卵成熟未受精卵、あるいは成熟卵巣卵)を単に水に浸すだけで発生開始(付活)させることができるから、卵成熟・受精・発生開始(付活)機構の研究に好適な実験系を提供すると考えられ、新規実験材料としての開発を試みてきた。初期の研究から、カブラハバチは精子注入(intracytoplasmic sperm injection, ICSI)による受精が可能な、昆虫では唯一の系であることを明らかにした。本補助金による研究期間中に得た成果は5編の原著論文として公表した。内容の要約は以下の通りである。 1.卵黄蛋白質遺伝子cDNAをクローニングし、塩基配列から予想されるものと実際のアミノ酸配列が一致することを確認した。また、遺伝子発現は雌脂肪体でのみ起こり、卵巣では起こらないことを明らかにした。 2.精子注入を、卵前端から行うと受精が起こるが、後端から行うと受精はけして起こらず、かわりに卵核と精子核とが独立に発生に酸化する半数体キメラを生じることを明らかにした。 3.精子は、凍害保護材を加えることなくいきなり液体窒素に投入して凍結保存したものを解凍し、形態的に異常なものでも、授精能を持つことを明らかにした。 4.卵黄蓄積前の未成熟卵巣を近縁異種雄に移植し、ホルモン処理により卵黄蛋白質合成を誘導すると、異種卵黄蛋白質のみで卵は成熟し、人為的に付活すると発生を完了し、半数体雄になることを確認した。 5.抗カブラハバチ卵黄蛋白質抗体、カブラハバチ卵黄蛋白質遺伝子cDNAを用いて、広く膜翅目広腰亜目を調べ、抗原性および塩基配列に高い類似性が認められることを明らかにした。
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