研究概要 |
アルツハイマー病(AD)の内家族性のものはその遺伝的背景が確立している点で重要な知見をもたらすことが期待される。すでに、スウェーデンの家族性アルツハイマー病(FAD)ではアミロイドタンパクの直前であるAPP670/671の部位に2重突然変異があり、アミロイドタンパクの生成に6から8倍の亢進作用があることがしられており、APPの遺伝的変化は重要な意味をもつことが理解されていた。 FADのうちもっとも早くまた、我が国においても多く存在するタイプとして APP717における点突然変異がある。この家系ではヴァリンがイソロイシンに変換していることが知られており、その位置がアミロイドタンパクのカルボキシル末端に近いことからその前駆体(APP)からアミロイドタンパクが生成する機構に影響を及ぼすことが考えられた。われわれは以前アミロイドタンパクの精製とその微細構造を明らかにした際、アミロイドタンパクに2種類の成分(Aβ1-40とAβ1-43)があることを発表した(Mori.H,Takio.K,Igawara.M,& Selkoe.D.J.,Mass spectrometry of purified amyloid B protein in Alzheimer's disease,J.Biol.Chem.267,17082-18086,1992)。APP717-の生物学的意義をアミロイドタンパクのカルボキシル末端を認識する抗体を用いたELISAによってAD脳とFAD脳に沈着するアミロイドタンパクを定量分析した結果、APP717の点突然変異をもつFAD脳では長い分子種であるAβ1-42/43の相対比がAβ1-40より高いことが判明した。このことは、Aβ1-42/43がアミロイド沈着反応の律速段階である「種」形成に与るという最近の学説を考慮するとき、同家系がearly onsestであることを的確に説明できると考えた。
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