研究概要 |
アルドース還元酵素はNADPHを補酵素としてグルコースをソルビトールという糖アルコールに変換する酵素である。本酵素を介するポリオールの代謝異常が糖尿病神経症をはじめとする種々の合併症の発症に関与することが近年明らかにされてきた。本酵素の生理的役割や酵素蛋白の発現調節機構は未だ不明であるが、糖尿病合併症の発症に関わる本酵素の発現調節機構を解明することは発症の予防と治療に重要と考えられる。そこで本研究では特に糖尿病による神経障害に着目し、ヒト培養神経系細胞における本酵素の発現調節について検討を行った。ヒト由来の神経系細胞株としてneuroblastoma由来のIMR-32,SCCH-26,GOTOとgliblastoma由来のA-172を用いた。まずアルドース還元酵素蛋白の発現を本研究者らが最近開発したイムノアッセイ法(Clin.Chem.in press)にて測定したころ、いずれの細胞でも本酵素を検出したが特にSCCH-26とA-172に高い発現を認めた。次にこれらの細胞を30mM glucose+1muM insulin或は150mM NaClを添加した培地にて8時間から7日間培養し、酵素量を測定した。その結果NaCl添加培地にてA-172においてのみ100倍近く酵素発現量が上昇することが見いだされた。この酵素発現の増加はNaClの濃度に依存的で、培養液を通常倍地に置き換えると経時的に下降することから可逆的であることがわかった。またNaClの代わりに250mMのソルビトールまたはラフィノースを添加した倍地でも同様の変化を認めたことから、A-172における本酵素の発現は浸透圧の上昇により誘導されることが示唆された。さらにヒト酵素cDNAプローブを用いたノザンブロット解析からこの酵素発現の変化はmRNAレベルの変化に起因すると考えられた。今後この発現調節機構を遺伝子レベルで解析し、糖尿病病態下でのアルドース還元酵素の発現調節についてさらに追究する予定である。
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