研究概要 |
我々はニワトリ胚の嗅上皮細胞をカルボシアニン色素DiIで標識すると,DiI標識細胞は発生が進むにしたがって嗅上皮から嗅神経に沿って脳内へ移動することを見い出した。さらに,DiI標識細胞の多くがLHRHを発現することが判明し,LHRHニューロンが嗅上皮から生じ,脳内へ移動することが立証された。 嗅上皮を3.5日のニワトリ胚で除去した場合,嗅上皮に傷害の程度に応じて結果が異なることが分かった。 1)嗅上皮の除去が完全で,嗅神経の発達が障害され嗅神経が欠損した場合は,LHRHニューロンは脳内に出現しない。2)嗅上皮除去が不完全な場合は,少数のLHRHニューロンが出現する。その場合,嗅神経の発達が悪くともNCAM-H陽性神経線維の細い束が前脳に達していれば,少数のLHRHニューロンが脳内に出現した。しかし,嗅神経が前脳まで到達できなかった場合は、途中までしか発達しないNCAM-H陽性の嗅神経成分と一緒にLHRHニューロンが認められた。未発達の嗅神経は,嗅上皮の背側端近くで,眼神経の内側鼻枝と融合することが多い。眼神経はNCAM-H陽性で,鼻領域に分布する三叉神経由来の感覚神経である。障害を免れたLHRHニューロンは未発達の嗅神経とともに眼神経内側鼻枝と一緒になり,このNCAM-H陽性の神経束に迷入するのが観察された。LHRHニューロンはこの神経束内を中枢及び抹消方向の両方向に移動するのが認められた。3)嗅上皮組織の培養系では,LHRHニューロンが組織片から外へ移動する場合,常にNCAM-H陽性の嗅神経成分と共存し,嗅神経の突起が組織片から外へ出ないで中に留まっている例では,LHRHニューロンは組織片内に留まっていた。 以上のことから,LHRHニューロンの移動には嗅覚神経のような構造的因子が重要な意味をもつことを示すと同時に,三叉神経成分にLHRHニューロンが迷入する事から,嗅覚上皮のLHRHニューロンの前駆細胞は移動の経路や標的などについて詳細にはプログラムされてはいないことを示す。また,NCAM-H陽性神経成分とLHRHニューロンが常に共存することから,NCAM-HがLHRHニューロンの移動をガイドする化学的因子として働いていると考えられる。
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