研究概要 |
腸管神経系には,一酸化窒素(NO)を合成する酵素(NO合成酵素,NOS)の存在の明らかになっており、これまでの研究でNOが神経細胞・神経細胞間シナプスの伝達物質として作用する可能性が知られている。本年度はNOSに対する抗体を用いて、NOを神経伝達物質として用いる可能性のある腸管神経細胞の形態と,電気生理学的特徴を詳細に検討した。 標本には切除したモルモットの摘出小腸を用いた。粘膜層と内輪状筋層を剥離して、アウエルバッハ神経叢を外縦走筋層上に露出した標本を作製した。あらかじめ細胞内の移動性の高いトレーサー(Neurobiotin)を先端に封入したガラス微小電極で、腸管神経細胞を刺入し、その電気活動を記録した後、Neurobiotinを細胞内に電気泳動的に注入した。実験終了後、標本を固定した後、蛍光抗体を結合させたNOSに対する抗体を用い、NO合成酵素の存在部位を明らかにし、かつNeurobiotinを注入した神経細胞をジアミノベンチジンで発色させて、その形態を検討した。 その結果、モルモットの小腸のアウエルバッハ神経叢では、約10%の神経細胞にNOを産成する酵素が発見され、そのほとんどは神経軸策が一つしかない、単極神経細胞であった。一方、複数の神経軸策を持つ多極神経細胞には、NOSの存在は確認できなかった。このことから、腸管神経叢ではNOの神経終末からの放出する神経は、主に単極神経細胞であり、これらの細胞は腸管壁平滑筋を抑制する運動神経であり、かつまた、腸管神経間のシナプス伝達を調節する機能も合わせ持つ可能があると考えられた。
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