研究概要 |
経口免疫により賦与されるポリオウイルスに対する,粘膜免疫応答の成立機序について解析する事を目的として研究を行った。実験には,ポリオウイルスレセプター遺伝子を導入したトランスジェニック(PVR-Tg)マウスを用いた。PVR-T_1gマウスは,ポリオウイルスの経口感染が成立し難かった。原因としてはポリオウイルスレセプターのマウス腸管における発現が著しく弱いことが考えられた。そこで,PVR-Tgマウスの腸管で訓化を試み,I型の強毒株であるMahoney株に由来するMN341株を得た。 MN341株は経口感染の後,体内伝播がみられ,脳内で増殖しPVR-Tgマウスを致死させ,LD50は10^<4.5>PFU/mouseであった。LP50値から,経口免疫ウイルス量を10^4PFU/mouse,攻撃ウイルス量は10^6PFU/mouseとし以下の実験を行った。一回のみ経口免疫を行ったPVR-Tgマウス群は,免疫7日後の攻撃ウイルス量による感染に対し100%の生存率を示した。二回または三回経口免疫群においても同様の成績が得られた。経口免疫を行ったPVR-Tgマウスは,ウイルスの体内伝播が阻止されていた。また非免疫と経口免疫PVR-Tgマウスに,攻撃ウイルス量を感染させ腸管局所におけるリンパ球のサイトカインmRNAの発現を比較したところ,経口免疫マウスでは,IL4,IL-5ならびにIL-6の発現が認められた。さらに経口免疫を行ったPVR-Tgマウスの血中ならびに糞便中の抗体を測定した結果,血中ではIgGおよびIgM,糞便中にはIgAおよびIgGクラスの特異抗体と中和抗体の上昇が認められた。以上の結果より,ポリオウイルスの経口感染に対する感染防御は,経口免疫により誘導されるIgAを主体とする腸管局所での粘膜免疫応答の誘導が重要であることが示唆された。
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